マジック回顧録 その7
マジック回顧録 その7
現在の私から見ても、当時のハチメンバーは全員が北陸屈指のプレイスキルを持っていた。

特に現役ナンバー2の佐藤さんにおいては、プレイの正確さにおいて右に出る者はいなかっただろう。


殿堂プレイヤー「ジョン=フィンケル」氏は、
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マジックにおいて、良いプレイや悪いプレイというものは存在しない。
正しいプレイと、正しくないプレイがあるだけだ。
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との名言を残している。


その意味では、佐藤さんのプレイは「正しいプレイ」に最も近かったのかもしれない。




しかし、山岸裕一のプレイは、全く異質なものだった。

彼は、対戦相手を「正しくないプレイ」に誘導する天才だった。




分かりやすくするために、単純な例で説明する。

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こちらが5/5のクリーチャーをコントロールしているにも関わらず、相手の3/3のクリーチャーが殴ってきたとする。

当然、こちらは相手の「巨大化」系のスペルを警戒し、場合によってはブロックしない選択をとるだろう。

しかし実際には、相手の手札にインスタントは1枚も無かった。
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これは、経験を積んだプレイヤーなら誰でも習得しているであろう「ブラフアタック」だ。
当然ながら、普通にブロックされれば大損してしまうため、相当にリスクが高いプレイでもある。

山岸裕一は、この手のブラフの「達人」であった。



山岸さんは、盤面の状況や相手の心理を読み切って、ブラフを通す技術に長けていた。
一方では、実際にコンバットトリックを持っている場面では、その匂いを消すことにも長けていた。

特に、リミテッドにおける「バウンス」の使いどころが神がかっていたことから、他のハチメンバーからは「ギシ(山岸)のバウンスは10点ある」とまで言われていたのだ。



ブラフの技術など一切習得していなかった私にとって、山岸さんのプレイは新鮮な驚きに満ちていた。

彼曰く、「普通にプレイしても勝てないゲームは、相手にミスらせて勝つしかない。」とのことだ。

当時の私には、何を言っているのかさっぱり分からなかった。




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私がハチメンバーとのドラフト練習会で少しずつ勝てるようになってきた頃、「グランプリ大阪2005」の開催が発表された。

フォーマットは、「神河物語」を使用した『チームリミテッド』だ。



チーム戦の楽しさについては、以前からあばたさんから聞かされていたこともあり、非常に興味があった。

出場するには「3人チーム」を作る必要があったのだが、正直、私の実力はまだまだハチメンバーに及んでいなかったので、他のグループからチームメイトを探すしかないと考えていた。



ところが、ある日、ハチメンバーの太田さんが私をチームメイトに誘ってくれたのだ!

彼がなぜ、私とチームを組んでくれたのかは分からないが、この時の喜びは今でもよく覚えている。




さて、問題は3人目のメンバーとして誰を誘うかだ。

他のハチメンバーは、すでに別のチームを組んでいたので、3人目については他のグループに声をかけるしか無かった。

その呼びかけに快く応じてくれたのが、昨年、日本選手権北陸予選を突破した「アツヲ」だ。

私たちは、申し分のない実力者を引き入れることに成功し、チームリミテッドの練習に取り掛かるのであった。






グランプリ大阪では、初日は「チームシールド」、2日目は「チームロチェスタードラフト」を行うことになっていた。

どちらのフォーマットも初めて経験するものであったが、初日のチームシールドを勝ち上がらなければ2日目は無い。

ひとまずチームシールドの練習を優先的に行うことにした。



練習を進めるうちに、「チームシールド」の特性が朧気に見えてきた。

チームシールドは、ブースター10パックを使って、3つのデッキを作るフォーマットだ。

ほとんどのカードプールで有効だと思われる戦略は、
まず「白、青、黒、赤」の4色を二人で分け合い「強いデッキ2個」を組み上げてしまう。
そして、最後の一人が「緑」と「余り物」を使って「緑+多色」を組み上げるというものだ。

「緑多色」を担当するには、現場での臨機応変な構築能力が不可欠であるとともに、デッキパワーが負けていようが胡麻化して勝ちに行けるプレイスキルも必要になる。
この環境ですでに練習を積んでいた太田さんか私のどちらかが、緑を担当するべきだと考えた。

最終的に、
「プレイスキルが最も高い太田さんには、強いデッキを渡し、全勝を目指してもらう。」
「他の2人よりもリミテッド経験が少ないアツヲには、強いデッキで勝ち越してもらう。」
「現場での構築能力が高い私が緑を担当し、弱いパーツで騙し騙し頑張る。」
との作戦に落ち着いた。



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いよいよ『グランプリ大阪2005』が開幕した。


最初に開けたカードプールには、「黄昏の守護者、秘加理」や「夜の華、切苦」などのレアや、強力なアンコモンである「血の儀式」が含まれていた。

作戦通り、緑以外の4色をどう分けるべきか、検討を始めた。

前述のレア2枚を入れた強力な『白黒グッドスタッフ』と、「血の儀式」と「空民システムクリーチャー」でアドバンテージをとる『青赤システムコントロール』を組み上げた。
いずれも、コンセプトが明確かつ強力なデッキだ。

問題となる『第三のデッキ』では、「小走りの死神」と「苔の神」を2枚ずつ使うことが出来たので、「緑黒タッチ赤の大型スピリットデッキ」を組み上げることが出来た。
緑多色のキーカードである「木霊の手の内」も2枚含まれており、パーツの強さは十分であった。

しかし、地上が膠着した場合の勝ち筋が、たった1枚の「寄せ餌」しかなかったところが気がかりだった。そこで私は、青のカードプールから「孤独の守護者」を見つけ出し、これを4色目としてタッチした。
この4色目を追加したことについて、後に太田さんが「最大のファインプレイ」と評価してくれた。

デッキの割り当ては、太田さんが『白黒』、アツヲが『青赤』、私が『緑4色』を使うこととなった。





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黄昏の守護者、秘加理 (3)(白)(白)
伝説のクリーチャー — スピリット(Spirit)
飛行
あなたがスピリット(Spirit)呪文か秘儀(Arcane)呪文を唱えるたび、黄昏の守護者、秘加理を追放してもよい。そうした場合、次の終了ステップの開始時にそれをオーナーのコントロール下で戦場に戻す。
4/4
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夜の華、切苦 (黒)(黒)
伝説のクリーチャー — 人間(Human) 暗殺者(Assassin)
(2)(黒)(黒),(T):クリーチャー1体を対象とする。そのクリーチャーは自身に、そのパワーに等しい点数のダメージを与える。
1/1
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血の儀式 (3)(赤)(赤)
エンチャント
(1)(赤),クリーチャーを1体、生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人かプレインズウォーカー1体を対象とする。血の儀式はそれに2点のダメージを与える。
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小走りの死神 (4)(黒)
クリーチャー — スピリット(Spirit)
小走りの死神を生け贄に捧げる:クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで-1/-1の修整を受ける。
転生4(このクリーチャーが死亡したとき、あなたはあなたの墓地にある点数で見たマナ・コストが4以下のスピリット(Spirit)・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻してもよい。)
4/2
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苔の神 (5)(緑)
クリーチャー — スピリット(Spirit)
トランプル
5/5
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寄せ餌 (1)(緑)(緑)
エンチャント — オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーをブロックできるすべてのクリーチャーは、エンチャントされているクリーチャーをブロックする。
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孤独の守護者 (1)(青)
クリーチャー — スピリット(Spirit)
あなたがスピリット(Spirit)か秘儀(Arcane)呪文を唱えるたび、クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで飛行を得る。
1/2
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4ラウンドが終わり、このような結果となった。


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太田さん   3-1
私      2-2
アツヲ    0-4

チームの勝敗 2-2  
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アツヲが全敗した。



こうなった最大の理由は、3ラウンド目にようやく気づくことが出来た。

『青赤システムコントロール』は、3つのデッキの中で最も難解なプレイングを要求されるものであった。

アツヲのプレイングが未熟というわけではないが、もともと直線的なデッキを得意とするタイプなので、単純なカードパワーで押し切る『白黒』の方が適していた。

「システムクリーチャーによるコントロール」を得意としていたのは、太田さんの方だった。

「プレイスタイル」という盲点に気づけなかった故の、采配ミスだ。




すでに2日目進出が難しくなっていたこともあり、次のカードプールでは、何とかアツヲを勝たせることを優先した。

2回目のデッキ構築では、「飢えたるもの、卑堕硫」をはじめ強力なカードを擁する『赤黒除去スピリット』をアツヲに渡した。

太田さんが『緑黒ビートダウン』。

私は、秘儀連繋シナジーを集めた『青赤白スペルデッキ』だ。



ちなみに、最も弱いデッキを掴まされたのは太田さんだ。

勝ち筋は、2枚の「悪逆な大峨」と「デーモン」のコンボか、2枚の「蛇の皮」を使ったビートダウンしかないデッキだった。

あとで佐藤さん達に見せたら、だいぶ怒られた。




ちなみに結果は、

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太田さん   1-2
私      3-0
アツヲ    2-1

チームの勝敗 2-1  
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このようになった。



正直、あのデッキで1勝してしまうあたり、太田さんの勝負強さは流石と言わざるを得ない。
「最大のファインプレイ」をしたのは彼のほうだ。




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飢えたるもの、卑堕硫 (4)(黒)
伝説のクリーチャー — スピリット(Spirit)
飛行
(1),スピリット(Spirit)を1体生け贄に捧げる:対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは自分の手札を公開する。あなたはその中からカードを1枚選ぶ。そのプレイヤーは、そのカードを捨てる。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
転生4(このクリーチャーが死亡したとき、あなたはあなたの墓地にある点数で見たマナ・コストが4以下のスピリット・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻してもよい。)
3/2
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悪逆な大峨 (2)(黒)
クリーチャー — オーガ(Ogre) 戦士(Warrior)
悪逆な大峨ではブロックできない。
あなたがデーモン(Demon)をコントロールしているかぎり、悪逆な大峨は「(黒):悪逆な大峨を再生する。」を持つ。
3/2
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蛇の皮 (2)(緑)
エンチャント — オーラ(Aura)
瞬速
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
(緑):エンチャントされているクリーチャーを再生する。
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チームとしての『グランプリ大阪』はここで終わったわけだが、今日のデッキ構築の出来栄えに納得していなかった私は、全てのカードプールを宿舎に持ち帰り、ベストな構築を見つけるために一人反省会を行っていた。

途中、山岸さんにアドバイスを求めたところ、かなり遅い時間まで一緒に付き合ってくれた。

佐藤さんに言わせれば、二人とも相当な『マジックバカ』だった。







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その半年後、再び『日本選手権予選』の季節がやってきた。







次回、【ウルザトロンを巡る戦い】に続く。

コメント

nophoto
なまお
2020年7月23日20:50

数十年ぶりにmtgを検索してたらこのブログを見つけました。
この記事にも登場する人と一緒に見てましたが、
「普通にプレイしても勝てないゲームは、相手にミスらせて勝つしかない。」
に十数年越しのコメント
「ほんとにそうしないと勝てない」

いまも、変わらないようです。
楽しい思い出をありがとう。

nophoto
ぎし
2020年7月23日21:41

懐かしいねぇ
相手視点で、巨大化持ってたら盤面悪くなる、
通しても問題無いって思えるタイミングで良く使ったね

ひとみしり
2020年7月25日0:34

おお、2人とも懐かしい•••!!

私は、嫁様が許してくれるおかげで、今でもアリーナをゴリゴリやっております。

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