マジック回顧録 その8
2020年6月1日 Magic: The Gathering
日本選手権予選に至るまでの、当時のメタゲームを振り返ってみよう。
『神河物語』の発売からしばらく経った頃、スタンダード環境では『親和』と『ウルザトロン』の二極化が起こっていた。
『親和』はともかく、『ウルザトロン』がここまで躍進したのには理由がある。
『ウルザトロン』が構造的に「親和を対策したほとんどのデッキ」に対して有利なことも大きいが、最も重要なことは、『ウルザトロン』自体が『親和』に対する勝ちパターンを確立させたことだ。
『ウルザトロン』のベストムーブは、
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2ターン目、マナ加速
3ターン目、「ウルザ地形」のサーチ
4ターン目、「歯と爪」を双呪でキャスト
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というものだ。
このベストムーブをもってしても『親和』のキルターンに追いつくのは至難の業だったが、環境が進むにつれ、このムーブに「1ターン目、『酸化』でアーティファクト土地を破壊」という行程が付け加えられた。
これによって、『ウルザトロン』でも『親和』のトップスピードに追いつける確率が飛躍的に向上した。
「緑単ウルザトロン」のメインボードに、「ヴィリジアンのシャーマン」や「テル=ジラードの正義」ではなく、4枚の「酸化」が採用されていたのはこういう理由だ。
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酸化 (緑)
インスタント
アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
----------------------------------------
ヴィリジアンのシャーマン (2)(緑)
クリーチャー — エルフ(Elf) シャーマン(Shaman)
ヴィリジアンのシャーマンが戦場に出たとき、アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。
2/2
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テル=ジラードの正義 (1)(緑)
インスタント
アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。占術2を行う。
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ところが、2005年3月、スタンダード環境に激震が走った。
『親和』を構成するパーツのうち、8枚ものカードが禁止に指定されたのだ。
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【スタンダード禁止カード 2005年3月追加】
大霊堂の信奉者/Disciple of the Vault
電結の荒廃者/Arcbound Ravager
古えの居住地/Ancient Den
大焼炉/Great Furnace
教議会の座席/Seat of the Synod
伝承の樹/Tree of Tales
囁きの大霊堂/Vault of Whispers
ダークスティールの城塞/Darksteel Citadel
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現代マジックの考え方からすれば、「これほど環境をゆがめていたデッキならば、禁止になるのは当然の結果だ」と思う人も多いだろう。
しかし、当時の「Wizards of the Coast」は、スタンダードでの禁止措置に対して極めて慎重な態度をとっていた。そのことは、あの「頭蓋骨絞め」が4ヶ月以上放置されたことからも伺える。
この突然の禁止措置に、大多数のプレイヤーが驚愕した。
『親和』を失ったスタンダード環境は、激変の時代を迎えた。
環境当初は、すでに完成されたデッキである『ウルザトロン』が中心となったが、それに対して「すき込み」を投入したデッキがいくつも現れた。
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すき込み (3)(緑)(緑)
ソーサリー
土地2つを対象とする。それらを、オーナーのライブラリーの一番上に置く。
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その中でも、代表的なデッキが『緑単ビーコン』だ。
禁止前の環境で、浅原晃氏が「The Finals04」にオリジナルデッキとして持ち込み、そのまま優勝してしまったことで大いに話題になった「創造の標」デッキだ。
このコンセプトをそのままに、「トロールの苦行者」による中速ビートダウンを組み込んだ形が主流となっていた。
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創造の標 (3)(緑)
ソーサリー
あなたがコントロールする森(Forest)1つにつき緑の1/1の昆虫(Insect)クリーチャー・トークンを1体生成する。創造の標をオーナーのライブラリーに加えて切り直す。
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トロールの苦行者 (1)(緑)(緑)
クリーチャー — トロール(Troll) シャーマン(Shaman)
呪禁
(1)(緑):トロールの苦行者を再生する。
3/2
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ハチメンバーの中で「緑単ビーコン」の使い手といえば、ツナギさんだ。
彼はこのデッキに、「ゴブリンの放火砲」を加えるという前代未聞の改造を施していた。
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【緑単ビーコン放火砲】
4 極楽鳥/Birds of Paradise
4 桜族の長老/Sakura-Tribe Elder
4 ウッド・エルフ/Wood Elves
4 永遠の証人/Eternal Witness
4 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
4 不屈の自然/Rampant Growth
4 木霊の手の内/Kodama’s Reach
4 創造の標/Beacon of Creation
2 粗野な覚醒/Rude Awakening
4 忍び寄るカビ/Creeping Mold
4 すき込み/Plow Under
4 ゴブリンの放火砲/Goblin Charbelcher
4 金属モックス/Chrome Mox
9 森/Forest
1 山/Mountain
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私の記憶では、確かこのような構成だった。
一般的な「緑単ビーコン」とはコンセプトが異なっており、もはや「コンボデッキ」であった。
「土地がたった10枚」というのは正気の沙汰とは思えなかったが、「ゴブリンの放火砲」は数々のトーナメントで彼に勝利をもたらしていた。
私の知る限り、これほど独特なリストは世界のどこにも出回っていなかったのだが、その強さは本物だった。
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ゴブリンの放火砲 (4)
アーティファクト
(3),(T):クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。あなたのライブラリーを、土地カードが公開されるまで上から1枚ずつ公開する。ゴブリンの放火砲はこれにより公開された土地でないカードの数に等しい点数のダメージをそれに与える。もし公開されたカードが山(Mountain)であるなら、ゴブリンの放火砲は代わりに2倍のダメージを与える。公開されたカードを、望む順番であなたのライブラリーの一番下に置く。
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メタゲームの全体を俯瞰して見ると、この環境は『ウルザトロン』と『すき込みデッキ』が大部分を占めていた。
その大味な動きを咎めるために、「パーミッションコントロール」が徐々に頭角を現してきた。
ただし、パーミッション戦略そのものを否定してしまう「すべてを護るもの、母聖樹」に対して、どう向き合うかが課題だった。
「青系コントロール」の名手である佐藤さんは、「尖塔のゴーレム」と「ヴィダルケンの枷」を擁する『青単パーミッションコントロール』を選択した。
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すべてを護るもの、母聖樹
伝説の土地
すべてを護るもの、母聖樹はタップ状態で戦場に出る。
(T),2点のライフを支払う:(◇)を加える。このマナがインスタント呪文かソーサリー呪文のために使われたなら、その呪文は打ち消されない。
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尖塔のゴーレム (6)
アーティファクト クリーチャー — ゴーレム(Golem)
親和(島(Island))(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールする島1つにつき(1)少なくなる。)
飛行
2/4
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ヴィダルケンの枷 (3)
アーティファクト
あなたは、あなたのアンタップ・ステップにヴィダルケンの枷をアンタップしないことを選んでもよい。
(2),(T):あなたがコントロールする島(Island)の数以下のパワーを持つクリーチャー1体を対象とする。ヴィダルケンの枷がタップ状態であり続けるかぎり、そのクリーチャーのコントロールを得る。
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あまりにも「すき込み」が増え過ぎたことで、『ウルザトロン』の勢力は徐々に弱まりつつあった。
そこで私が構築したのは、現存の『ウルザトロン』に打ち消し呪文を加えた、『緑青ウルザトロン』だ。
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【緑青ウルザトロン】
2 永遠の証人/Eternal Witness
1 ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman
1 鏡割りのキキジキ/Kiki-Jiki, Mirror Breaker
1 メフィドロスの吸血鬼/Mephidross Vampire
1 隔離するタイタン/Sundering Titan
1 トリスケリオン/Triskelion
1 ダークスティールの巨像/Darksteel Colossus
4 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
4 旅人のガラクタ/Wayfarer’s Bauble
2 精神隷属器/Mindslaver
4 森の占術/Sylvan Scrying
3 刈り取りと種まき/Reap and Sow
4 歯と爪/Tooth and Nail
4 卑下/Condescend
2 マナ漏出/Mana Leak
5 森/Forest
1 島/Island
4 真鍮の都/City of Brass
4 ウルザの塔/Urza’s Tower
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
1 先祖の院、翁神社/Okina, Temple to the Grandfathers
1 水辺の学舎、水面院/Minamo, School at Water’s Edge
1 すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All
サイドボード
4 忘却石/Oblivion Stone
4 テル=ジラードの正義/Tel-Jilad Justice
2 マナ漏出/Mana Leak
2 すき込み/Plow Under
1 刈り取りと種まき/Reap and Sow
1 映し身人形/Duplicant
1 精神隷属器/Mindslaver
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打ち消し呪文を構えながらウルザ地形を揃える動きは、「すき込み」を擁する『緑単ビーコン』との相性を「逆転」させるほどだった。
懸念としては、「真鍮の都」によるダメージが厳しく、アグロデッキに対するガードが下がってしまったことだ。
当時は「罰する者、ゾーズー」を擁する『赤単アグロ』も存在していた。
しかし、「メタゲームの立ち位置」と「デッキパワー」の両面において、『緑青ウルザトロン』が最高の選択であることは確信していた。
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罰する者、ゾーズー (1)(赤)(赤)
伝説のクリーチャー — ゴブリン(Goblin) 戦士(Warrior)
土地1つが戦場に出るたび、罰する者、ゾーズーはその土地のコントローラーに2点のダメージを与える。
2/2
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「日本選手権 福井予選」の日が近づいていた頃、全国にはすでに予選が完了した地区もあり、予選を通過したデッキリストがインターネット上に出回っていた。
そこで私たちは、見たこともない「奇妙なデッキ」が予選を複数通過しているのを見つけた。
『青単トロン』だ。
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【青単トロン】
4 真面目な身代わり/Solemn Simulacrum
3 トリスケリオン/Triskelion
1 電結の回収者/Arcbound Reclaimer
3 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
3 忘却石/Oblivion Stone
3 精神隷属器/Mindslaver
1 骸骨の破片/Skeleton Shard
1 威圧の杖/Staff of Domination
4 マナ漏出/Mana Leak
4 卑下/Condescend
4 血清の幻視/Serum Visions
4 知識の渇望/Thirst for Knowledge
1 加工/Fabricate
11島/Island
1 沼/Swamp
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの塔/Urza’s Tower
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今でこそ「青」を主体とする『ウルザトロン』は珍しくもないが、当時は画期的どころか「異常」に思えた。
一般的には「ウルザ地形はサーチカードがなければ集められない」との認識が主流であったため、「ドロー呪文や占術でウルザ地形を揃える」などというコンセプトは、あまりにも常識破りだった。
さらに言えば、主流だった『緑単ウルザトロン』は、最速でウルザ地形を揃えてゲームを終わらせることを是としていたため、コンボデッキに近い考え方だった。
「遅いコントロールにウルザ地形を組み込む」という発想は、少なくとも当時の私には理解すらできなかった。
そして私は、福井の地で『青単トロン』の力を身をもって知ることになる。
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いよいよ「日本選手権 福井予選」が始まった。
石川や福井のプレイヤーが中心であったが、遠征組も数名紛れ込んでいるようだった。
ちなみに、アツヲをはじめとする富山のプレイヤーの多くは、後日開催される「新潟予選」に出場するようだった。
ハチメンバーの太田さんも、新潟予選に登録した。
予選はスイスドロー形式6回戦で行われる。
トップ8はシングルエリミネーションによる決勝を行い、上位4名に本戦の権利が与えられる。
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1回戦では、青黒ハンデスコントロールのようなメタ外のデッキに当たったが、もともと『ウルザトロン』は雑多なデッキに強い特長があるため、問題にはならなかった。
3回戦では『緑単ビーコン』に当たったが、想定通り、「すき込み」をカウンターして「歯と爪」に繋げるムーブで圧勝した。
「3勝0敗」で折り返したところで、私は埼玉県からの遠征組とマッチアップすることになった。
日本選手権の地区予選は、プレイヤーごとに「1回しか出場できない」との制限があるものの、出場する地区はどこでも選ぶことが出来た。
そこで、関東や関西のプレイヤーが、「レベルが低い地方の予選の方が、突破しやすい」と考え、遠征してくることがよくあるのだ。
私たち地元の人間にとって、遠征組との戦いは、絶対に負けるわけにはいかないのだ。
その埼玉県人が持ち込んできたデッキは、あの『青単トロン』だ。
私は『青単トロン』との練習はほとんど出来ていなかったが、それでもマッチアップしたときのプランは想定していた。
『青単トロン』に搭載されている打ち消し呪文の枚数は、私のデッキとそれほど変わらない。
一方、私の方は「ウルザ地形」や「すべてを護るもの、母聖樹」のサーチ手段が豊富だ。
さらに、相手の主力である「トリスケリオン」などの脅威は、こちらのデッキに対して有効ではない。
対して、こちらの「歯と爪」は相手にとって致命的だ。
このマッチアップは、あらゆる面で『緑青ウルザトロン』側が有利だ。
私は、世に出回っていた『青単トロン』のデッキリストを確認した時点で、そう判断していた。
ところが、その埼玉県人が操る『青単トロン』は、遥かに進化したものだった。
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【埼玉県人の青単トロン】
2 メムナーク/Memnarch
1 機械仕掛けのドラゴン/Clockwork Dragon
4 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
3 上天の呪文爆弾/AEther Spellbomb
3 精神隷属器/Mindslaver
4 忘却石/Oblivion Stone
4 血清の幻視/Serum Visions
4 知識の渇望/Thirst for Knowledge
3 マナ漏出/Mana Leak
4 卑下/Condescend
4 巻き直し/Rewind
11 島/Island
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの塔/Urza’s Tower
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
1 水辺の学舎、水面院/Minamo, School at Water’s Edge
サイドボード
4 太陽のしずく/Sun Droplet
3 曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror
3 残響する真実/Echoing Truth
2 不忠の糸/Threads of Disloyalty
1 精神隷属器/Mindslaver
2 すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All
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埼玉県人の青単トロンには、確定カウンターである「巻き直し」がメインからフル投入されており、こちらの搭載数を大きく上回っていた。
さらに、『青単トロン』には「精神隷属器」以外に脅威となるスペルは存在しないはずだったのだが、彼のデッキには「メムナーク」が搭載されていた。
実際の対戦で、このミラディンの管理人は私の「ダークスティールの巨像」を裏切らせるばかりか、「ウルザ地形」まで奪っていった。
埼玉県人の「精神隷属器」が起動される頃には、敗北を認める以外に道は無かった。
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巻き直し (2)(青)(青)
インスタント
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。土地を最大4つまでアンタップする。
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ダークスティールの巨像 (11)
アーティファクト クリーチャー — ゴーレム(Golem)
トランプル、破壊不能
ダークスティールの巨像がいずれかの領域からいずれかの墓地に置かれる場合、代わりにダークスティールの巨像を公開し、それをオーナーのライブラリーに加えて切り直す。
11/11
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メムナーク (7)
伝説のアーティファクト クリーチャー — ウィザード(Wizard)
(1)(青)(青):パーマネント1つを対象とする。それはそのタイプに加えてアーティファクトになる。(この効果は永続する。)
(3)(青):アーティファクト1つを対象とする。そのコントロールを得る。(この効果は永続する。)
4/5
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精神隷属器 (6)
伝説のアーティファクト
(4),(T),精神隷属器を生け贄に捧げる:プレイヤー1人を対象とする。あなたはそのプレイヤーの次のターンの間、そのプレイヤーをコントロールする。(あなたはそのプレイヤーが見ることのできるすべてのカードを見て、そのプレイヤーのすべての決定を行う。)
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遠征組を打ち破ることが出来なかった私は、続く5回戦、地元で有名な「白ウィニー使い」のシロザ氏と対戦することになった。
苦手とするアグロデッキとの対戦ではあったが、サイドボードの「忘却石」がギリギリで間に合い、辛くも2-1で勝利することが出来た。
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忘却石 (3)
アーティファクト
(4),(T):パーマネント1つを対象とする。その上に運命(fate)カウンターを1個置く。
(5),(T),忘却石を生け贄に捧げる:運命カウンターが置かれていない、すべての土地でないパーマネントを破壊する。その後すべてのパーマネントの上からすべての運命カウンターを取り除く。
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最終戦はID(合意による引き分け)となり、通算成績は「4勝1敗1分」となった。
結果は、7位でトップ8入りだ!
あと1勝・・・・・あと1勝で、日本選手権の本戦に出られるんだ!!!!
喜びと緊張にまみれているのを後目に、決勝ラウンドのマッチアップが発表された。
この福井予選における決勝ラウンドは、1位が8位と対戦し、3位は6位と対戦するように、上位プレイヤーが下位プレイヤーとマッチアップするシステムになっていた。
つまり、7位抜けである私の対戦相手は、「5勝0敗1分」で抜けた2位のプレイヤーだ。
運命は残酷だった。
私の前に立ちはだかったのは、北陸最強の男、山岸裕一だった。
次回、【 決 戦 】に続く。
『神河物語』の発売からしばらく経った頃、スタンダード環境では『親和』と『ウルザトロン』の二極化が起こっていた。
『親和』はともかく、『ウルザトロン』がここまで躍進したのには理由がある。
『ウルザトロン』が構造的に「親和を対策したほとんどのデッキ」に対して有利なことも大きいが、最も重要なことは、『ウルザトロン』自体が『親和』に対する勝ちパターンを確立させたことだ。
『ウルザトロン』のベストムーブは、
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2ターン目、マナ加速
3ターン目、「ウルザ地形」のサーチ
4ターン目、「歯と爪」を双呪でキャスト
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というものだ。
このベストムーブをもってしても『親和』のキルターンに追いつくのは至難の業だったが、環境が進むにつれ、このムーブに「1ターン目、『酸化』でアーティファクト土地を破壊」という行程が付け加えられた。
これによって、『ウルザトロン』でも『親和』のトップスピードに追いつける確率が飛躍的に向上した。
「緑単ウルザトロン」のメインボードに、「ヴィリジアンのシャーマン」や「テル=ジラードの正義」ではなく、4枚の「酸化」が採用されていたのはこういう理由だ。
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酸化 (緑)
インスタント
アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
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ヴィリジアンのシャーマン (2)(緑)
クリーチャー — エルフ(Elf) シャーマン(Shaman)
ヴィリジアンのシャーマンが戦場に出たとき、アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。
2/2
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テル=ジラードの正義 (1)(緑)
インスタント
アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。占術2を行う。
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ところが、2005年3月、スタンダード環境に激震が走った。
『親和』を構成するパーツのうち、8枚ものカードが禁止に指定されたのだ。
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【スタンダード禁止カード 2005年3月追加】
大霊堂の信奉者/Disciple of the Vault
電結の荒廃者/Arcbound Ravager
古えの居住地/Ancient Den
大焼炉/Great Furnace
教議会の座席/Seat of the Synod
伝承の樹/Tree of Tales
囁きの大霊堂/Vault of Whispers
ダークスティールの城塞/Darksteel Citadel
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現代マジックの考え方からすれば、「これほど環境をゆがめていたデッキならば、禁止になるのは当然の結果だ」と思う人も多いだろう。
しかし、当時の「Wizards of the Coast」は、スタンダードでの禁止措置に対して極めて慎重な態度をとっていた。そのことは、あの「頭蓋骨絞め」が4ヶ月以上放置されたことからも伺える。
この突然の禁止措置に、大多数のプレイヤーが驚愕した。
『親和』を失ったスタンダード環境は、激変の時代を迎えた。
環境当初は、すでに完成されたデッキである『ウルザトロン』が中心となったが、それに対して「すき込み」を投入したデッキがいくつも現れた。
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すき込み (3)(緑)(緑)
ソーサリー
土地2つを対象とする。それらを、オーナーのライブラリーの一番上に置く。
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その中でも、代表的なデッキが『緑単ビーコン』だ。
禁止前の環境で、浅原晃氏が「The Finals04」にオリジナルデッキとして持ち込み、そのまま優勝してしまったことで大いに話題になった「創造の標」デッキだ。
このコンセプトをそのままに、「トロールの苦行者」による中速ビートダウンを組み込んだ形が主流となっていた。
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創造の標 (3)(緑)
ソーサリー
あなたがコントロールする森(Forest)1つにつき緑の1/1の昆虫(Insect)クリーチャー・トークンを1体生成する。創造の標をオーナーのライブラリーに加えて切り直す。
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トロールの苦行者 (1)(緑)(緑)
クリーチャー — トロール(Troll) シャーマン(Shaman)
呪禁
(1)(緑):トロールの苦行者を再生する。
3/2
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ハチメンバーの中で「緑単ビーコン」の使い手といえば、ツナギさんだ。
彼はこのデッキに、「ゴブリンの放火砲」を加えるという前代未聞の改造を施していた。
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【緑単ビーコン放火砲】
4 極楽鳥/Birds of Paradise
4 桜族の長老/Sakura-Tribe Elder
4 ウッド・エルフ/Wood Elves
4 永遠の証人/Eternal Witness
4 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
4 不屈の自然/Rampant Growth
4 木霊の手の内/Kodama’s Reach
4 創造の標/Beacon of Creation
2 粗野な覚醒/Rude Awakening
4 忍び寄るカビ/Creeping Mold
4 すき込み/Plow Under
4 ゴブリンの放火砲/Goblin Charbelcher
4 金属モックス/Chrome Mox
9 森/Forest
1 山/Mountain
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私の記憶では、確かこのような構成だった。
一般的な「緑単ビーコン」とはコンセプトが異なっており、もはや「コンボデッキ」であった。
「土地がたった10枚」というのは正気の沙汰とは思えなかったが、「ゴブリンの放火砲」は数々のトーナメントで彼に勝利をもたらしていた。
私の知る限り、これほど独特なリストは世界のどこにも出回っていなかったのだが、その強さは本物だった。
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ゴブリンの放火砲 (4)
アーティファクト
(3),(T):クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。あなたのライブラリーを、土地カードが公開されるまで上から1枚ずつ公開する。ゴブリンの放火砲はこれにより公開された土地でないカードの数に等しい点数のダメージをそれに与える。もし公開されたカードが山(Mountain)であるなら、ゴブリンの放火砲は代わりに2倍のダメージを与える。公開されたカードを、望む順番であなたのライブラリーの一番下に置く。
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メタゲームの全体を俯瞰して見ると、この環境は『ウルザトロン』と『すき込みデッキ』が大部分を占めていた。
その大味な動きを咎めるために、「パーミッションコントロール」が徐々に頭角を現してきた。
ただし、パーミッション戦略そのものを否定してしまう「すべてを護るもの、母聖樹」に対して、どう向き合うかが課題だった。
「青系コントロール」の名手である佐藤さんは、「尖塔のゴーレム」と「ヴィダルケンの枷」を擁する『青単パーミッションコントロール』を選択した。
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すべてを護るもの、母聖樹
伝説の土地
すべてを護るもの、母聖樹はタップ状態で戦場に出る。
(T),2点のライフを支払う:(◇)を加える。このマナがインスタント呪文かソーサリー呪文のために使われたなら、その呪文は打ち消されない。
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尖塔のゴーレム (6)
アーティファクト クリーチャー — ゴーレム(Golem)
親和(島(Island))(この呪文を唱えるためのコストは、あなたがコントロールする島1つにつき(1)少なくなる。)
飛行
2/4
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ヴィダルケンの枷 (3)
アーティファクト
あなたは、あなたのアンタップ・ステップにヴィダルケンの枷をアンタップしないことを選んでもよい。
(2),(T):あなたがコントロールする島(Island)の数以下のパワーを持つクリーチャー1体を対象とする。ヴィダルケンの枷がタップ状態であり続けるかぎり、そのクリーチャーのコントロールを得る。
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あまりにも「すき込み」が増え過ぎたことで、『ウルザトロン』の勢力は徐々に弱まりつつあった。
そこで私が構築したのは、現存の『ウルザトロン』に打ち消し呪文を加えた、『緑青ウルザトロン』だ。
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【緑青ウルザトロン】
2 永遠の証人/Eternal Witness
1 ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman
1 鏡割りのキキジキ/Kiki-Jiki, Mirror Breaker
1 メフィドロスの吸血鬼/Mephidross Vampire
1 隔離するタイタン/Sundering Titan
1 トリスケリオン/Triskelion
1 ダークスティールの巨像/Darksteel Colossus
4 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
4 旅人のガラクタ/Wayfarer’s Bauble
2 精神隷属器/Mindslaver
4 森の占術/Sylvan Scrying
3 刈り取りと種まき/Reap and Sow
4 歯と爪/Tooth and Nail
4 卑下/Condescend
2 マナ漏出/Mana Leak
5 森/Forest
1 島/Island
4 真鍮の都/City of Brass
4 ウルザの塔/Urza’s Tower
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
1 先祖の院、翁神社/Okina, Temple to the Grandfathers
1 水辺の学舎、水面院/Minamo, School at Water’s Edge
1 すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All
サイドボード
4 忘却石/Oblivion Stone
4 テル=ジラードの正義/Tel-Jilad Justice
2 マナ漏出/Mana Leak
2 すき込み/Plow Under
1 刈り取りと種まき/Reap and Sow
1 映し身人形/Duplicant
1 精神隷属器/Mindslaver
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打ち消し呪文を構えながらウルザ地形を揃える動きは、「すき込み」を擁する『緑単ビーコン』との相性を「逆転」させるほどだった。
懸念としては、「真鍮の都」によるダメージが厳しく、アグロデッキに対するガードが下がってしまったことだ。
当時は「罰する者、ゾーズー」を擁する『赤単アグロ』も存在していた。
しかし、「メタゲームの立ち位置」と「デッキパワー」の両面において、『緑青ウルザトロン』が最高の選択であることは確信していた。
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罰する者、ゾーズー (1)(赤)(赤)
伝説のクリーチャー — ゴブリン(Goblin) 戦士(Warrior)
土地1つが戦場に出るたび、罰する者、ゾーズーはその土地のコントローラーに2点のダメージを与える。
2/2
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「日本選手権 福井予選」の日が近づいていた頃、全国にはすでに予選が完了した地区もあり、予選を通過したデッキリストがインターネット上に出回っていた。
そこで私たちは、見たこともない「奇妙なデッキ」が予選を複数通過しているのを見つけた。
『青単トロン』だ。
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【青単トロン】
4 真面目な身代わり/Solemn Simulacrum
3 トリスケリオン/Triskelion
1 電結の回収者/Arcbound Reclaimer
3 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
3 忘却石/Oblivion Stone
3 精神隷属器/Mindslaver
1 骸骨の破片/Skeleton Shard
1 威圧の杖/Staff of Domination
4 マナ漏出/Mana Leak
4 卑下/Condescend
4 血清の幻視/Serum Visions
4 知識の渇望/Thirst for Knowledge
1 加工/Fabricate
11島/Island
1 沼/Swamp
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの塔/Urza’s Tower
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今でこそ「青」を主体とする『ウルザトロン』は珍しくもないが、当時は画期的どころか「異常」に思えた。
一般的には「ウルザ地形はサーチカードがなければ集められない」との認識が主流であったため、「ドロー呪文や占術でウルザ地形を揃える」などというコンセプトは、あまりにも常識破りだった。
さらに言えば、主流だった『緑単ウルザトロン』は、最速でウルザ地形を揃えてゲームを終わらせることを是としていたため、コンボデッキに近い考え方だった。
「遅いコントロールにウルザ地形を組み込む」という発想は、少なくとも当時の私には理解すらできなかった。
そして私は、福井の地で『青単トロン』の力を身をもって知ることになる。
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いよいよ「日本選手権 福井予選」が始まった。
石川や福井のプレイヤーが中心であったが、遠征組も数名紛れ込んでいるようだった。
ちなみに、アツヲをはじめとする富山のプレイヤーの多くは、後日開催される「新潟予選」に出場するようだった。
ハチメンバーの太田さんも、新潟予選に登録した。
予選はスイスドロー形式6回戦で行われる。
トップ8はシングルエリミネーションによる決勝を行い、上位4名に本戦の権利が与えられる。
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1回戦では、青黒ハンデスコントロールのようなメタ外のデッキに当たったが、もともと『ウルザトロン』は雑多なデッキに強い特長があるため、問題にはならなかった。
3回戦では『緑単ビーコン』に当たったが、想定通り、「すき込み」をカウンターして「歯と爪」に繋げるムーブで圧勝した。
「3勝0敗」で折り返したところで、私は埼玉県からの遠征組とマッチアップすることになった。
日本選手権の地区予選は、プレイヤーごとに「1回しか出場できない」との制限があるものの、出場する地区はどこでも選ぶことが出来た。
そこで、関東や関西のプレイヤーが、「レベルが低い地方の予選の方が、突破しやすい」と考え、遠征してくることがよくあるのだ。
私たち地元の人間にとって、遠征組との戦いは、絶対に負けるわけにはいかないのだ。
その埼玉県人が持ち込んできたデッキは、あの『青単トロン』だ。
私は『青単トロン』との練習はほとんど出来ていなかったが、それでもマッチアップしたときのプランは想定していた。
『青単トロン』に搭載されている打ち消し呪文の枚数は、私のデッキとそれほど変わらない。
一方、私の方は「ウルザ地形」や「すべてを護るもの、母聖樹」のサーチ手段が豊富だ。
さらに、相手の主力である「トリスケリオン」などの脅威は、こちらのデッキに対して有効ではない。
対して、こちらの「歯と爪」は相手にとって致命的だ。
このマッチアップは、あらゆる面で『緑青ウルザトロン』側が有利だ。
私は、世に出回っていた『青単トロン』のデッキリストを確認した時点で、そう判断していた。
ところが、その埼玉県人が操る『青単トロン』は、遥かに進化したものだった。
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【埼玉県人の青単トロン】
2 メムナーク/Memnarch
1 機械仕掛けのドラゴン/Clockwork Dragon
4 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
3 上天の呪文爆弾/AEther Spellbomb
3 精神隷属器/Mindslaver
4 忘却石/Oblivion Stone
4 血清の幻視/Serum Visions
4 知識の渇望/Thirst for Knowledge
3 マナ漏出/Mana Leak
4 卑下/Condescend
4 巻き直し/Rewind
11 島/Island
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの塔/Urza’s Tower
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
1 水辺の学舎、水面院/Minamo, School at Water’s Edge
サイドボード
4 太陽のしずく/Sun Droplet
3 曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror
3 残響する真実/Echoing Truth
2 不忠の糸/Threads of Disloyalty
1 精神隷属器/Mindslaver
2 すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All
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埼玉県人の青単トロンには、確定カウンターである「巻き直し」がメインからフル投入されており、こちらの搭載数を大きく上回っていた。
さらに、『青単トロン』には「精神隷属器」以外に脅威となるスペルは存在しないはずだったのだが、彼のデッキには「メムナーク」が搭載されていた。
実際の対戦で、このミラディンの管理人は私の「ダークスティールの巨像」を裏切らせるばかりか、「ウルザ地形」まで奪っていった。
埼玉県人の「精神隷属器」が起動される頃には、敗北を認める以外に道は無かった。
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巻き直し (2)(青)(青)
インスタント
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。土地を最大4つまでアンタップする。
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ダークスティールの巨像 (11)
アーティファクト クリーチャー — ゴーレム(Golem)
トランプル、破壊不能
ダークスティールの巨像がいずれかの領域からいずれかの墓地に置かれる場合、代わりにダークスティールの巨像を公開し、それをオーナーのライブラリーに加えて切り直す。
11/11
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メムナーク (7)
伝説のアーティファクト クリーチャー — ウィザード(Wizard)
(1)(青)(青):パーマネント1つを対象とする。それはそのタイプに加えてアーティファクトになる。(この効果は永続する。)
(3)(青):アーティファクト1つを対象とする。そのコントロールを得る。(この効果は永続する。)
4/5
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精神隷属器 (6)
伝説のアーティファクト
(4),(T),精神隷属器を生け贄に捧げる:プレイヤー1人を対象とする。あなたはそのプレイヤーの次のターンの間、そのプレイヤーをコントロールする。(あなたはそのプレイヤーが見ることのできるすべてのカードを見て、そのプレイヤーのすべての決定を行う。)
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遠征組を打ち破ることが出来なかった私は、続く5回戦、地元で有名な「白ウィニー使い」のシロザ氏と対戦することになった。
苦手とするアグロデッキとの対戦ではあったが、サイドボードの「忘却石」がギリギリで間に合い、辛くも2-1で勝利することが出来た。
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忘却石 (3)
アーティファクト
(4),(T):パーマネント1つを対象とする。その上に運命(fate)カウンターを1個置く。
(5),(T),忘却石を生け贄に捧げる:運命カウンターが置かれていない、すべての土地でないパーマネントを破壊する。その後すべてのパーマネントの上からすべての運命カウンターを取り除く。
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最終戦はID(合意による引き分け)となり、通算成績は「4勝1敗1分」となった。
結果は、7位でトップ8入りだ!
あと1勝・・・・・あと1勝で、日本選手権の本戦に出られるんだ!!!!
喜びと緊張にまみれているのを後目に、決勝ラウンドのマッチアップが発表された。
この福井予選における決勝ラウンドは、1位が8位と対戦し、3位は6位と対戦するように、上位プレイヤーが下位プレイヤーとマッチアップするシステムになっていた。
つまり、7位抜けである私の対戦相手は、「5勝0敗1分」で抜けた2位のプレイヤーだ。
運命は残酷だった。
私の前に立ちはだかったのは、北陸最強の男、山岸裕一だった。
次回、【 決 戦 】に続く。
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