マジック回顧録 その9
マジック回顧録 その9
マジック回顧録 その9
「セス・マンフィールド」といえば、世界最高のプレイヤーの一人だ。

彼は記事の中で、「自分の得意なプレイスタイル」に合ったデッキを選択することの重要さを説いている。

メタゲームによって「最も良い立ち位置」のデッキを選択することは重要だが、本番で適切なプレイが出来なければ意味がない。

自分のプレイスタイルを理解し、それを活かすことは、世界トップクラスのプロであっても大切なのだ。





北陸のトッププレイヤー達の中にも、自分のスタイルを重視するプレイヤーは多い。

戦闘の達人である あばたさんは、構築フォーマットでも「ビートダウン」を愛用していた。
口癖は「アイ・ラブ・ビートダウン」だった。

盤面計算や確率計算で抜きんでていたツナギさんは、システムクリーチャーが複雑に絡む「ゴブリン」や、確率計算が重要な「コンボデッキ」を得意としていた。

佐藤さんは「パーミッションコントロール」の名手であった。多くのトーナメントで、青いコントロールデッキを選択していた。



一方、高度なプレイスキルを擁する山岸さんは、「プレイが難解なデッキ」を好んでいた。
言い換えれば、「選択肢が多く、対応力が高いデッキ」だ。

そんな彼に最も適したカードが、「神河物語」に収録されていた『けちな贈り物』だ。
この呪文は、まさに山岸裕一の「金棒」であった。


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けちな贈り物 (3)(青)
インスタント
対戦相手1人を対象とする。あなたのライブラリーから異なる名前のカードを最大4枚まで探し、それらを公開する。そのプレイヤーはそれらのカードから2枚を選ぶ。選ばれたカードをあなたの墓地に置き、残りをあなたの手札に加える。その後、あなたのライブラリーを切り直す。
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日本選手権2005 福井予選決勝

【けちな贈り物コントロール(山岸ver)】


4 桜族の長老/Sakura-Tribe Elder
4 永遠の証人/Eternal Witness
2 ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman
1 腐食ナメクジ/Molder Slug
1 曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror

1 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
4 マナ漏出/Mana Leak
3 邪魔/Hinder
3 けちな贈り物/Gifts Ungiven
1 巻き直し/Rewind
1 残響する真実/Echoing Truth
3 木霊の手の内/Kodama’s Reach
1 帰化/Naturalize
1 生き返り/Revive
1 粗野な覚醒/Rude Awakening
1 闇への追放/Dark Banishing
1 頭蓋の摘出/Cranial Extraction
1 肉体の奪取/Rend Flesh
1 残響する衰微/Echoing Decay

10 森/Forest
6 島/Island
3 沼/Swamp
3 氷の橋、天戸/Tendo Ice Bridge
1 塩の湿地/Salt Marsh
1 先祖の院、翁神社/Okina, Temple to the Grandfathers
1 すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All


サイドボード
3 トロールの苦行者/Troll Ascetic
3 無効/Annul
2 頭蓋の摘出/Cranial Extraction
2 残響する衰微/Echoing Decay
2 恐怖/Terror
1 仕組まれた爆薬/Engineered Explosives
1 北の樹の木霊/Kodama of the North Tree
1 ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman
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『けちな贈り物コントロール』は、「神河物語」発売直後の大型トーナメントにプロプレイヤー「八十岡 翔太」氏が持ち込んだことで、一躍有名になった。

別名、「ヤソコン」と呼ばれていた。

しかし、「隔離するタイタン」との相性は致命的であり、確定カウンターも少ないことから、トップメタの『ウルザトロン』に不利だと考えられた。

「すき込み」を投入したバージョンも生まれたが、結局、その後のメタゲームでは少数派となっていた。


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隔離するタイタン (8)
アーティファクト クリーチャー — ゴーレム(Golem)
隔離するタイタンが戦場に出たか戦場を離れたとき、基本土地タイプ1種につきそのタイプの土地を1つ選ぶ。その後それらの土地を破壊する。
7/10
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すき込み (3)(緑)(緑)
ソーサリー
土地2つを対象とする。それらを、オーナーのライブラリーの一番上に置く。
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一方、山岸さんのデッキには「すき込み」が1枚も入っていない。

多くのプレイヤーが「ウルザ地形」に照準を定めている中で、彼は「ウルザ地形ではなく、脅威そのものを対処した方が良い」と結論づけたのだ。

「頭蓋の摘出」で「歯と爪」さえ抜いてしまえば、キラーカードである「すべてを護るもの、母聖樹」はほぼ無意味となり、他の脅威は「打ち消し呪文」で十分に対処できるというわけだ。

サイドボードに含まれている3枚の「無効」は、まさにその戦略のカギとなるスペルだ。



テストプレイの時期、私は『緑単ウルザトロン』で山岸さんのデッキ調整を手伝ったこともあったが、負け越していた。

幸い、私の『緑青ウルザトロン』に搭載された打ち消し呪文は、山岸さんの戦略に対して有効だ。

勝負を決めるのは、「カウンターの差し合い」ということになる。



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頭蓋の摘出 (3)(黒)
ソーサリー — 秘儀(Arcane)
土地でないカード名を1つ選ぶ。プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーの墓地と手札とライブラリーから、選ばれたカードと同じ名前を持つカードをすべて探し、それらを追放する。その後、そのプレイヤーは自分のライブラリーを切り直す。
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歯と爪 (5)(緑)(緑)
ソーサリー
以下から1つを選ぶ。
・あなたのライブラリーからクリーチャー・カードを最大2枚まで探し、それらを公開し、あなたの手札に加える。その後あなたのライブラリーを切り直す。
・あなたの手札からクリーチャー・カードを最大2枚まで戦場に出す。
双呪(2)(あなたが双呪コストを支払った場合、両方を選ぶ。)
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すべてを護るもの、母聖樹
伝説の土地
すべてを護るもの、母聖樹はタップ状態で戦場に出る。
(T),2点のライフを支払う:(◇)を加える。このマナがインスタント呪文かソーサリー呪文のために使われたなら、その呪文は打ち消されない。
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無効 (青)
インスタント
アーティファクト呪文1つかエンチャント呪文1つを対象とし、それを打ち消す。
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【緑青ウルザトロン(ひとみしりver)】

2 永遠の証人/Eternal Witness
1 ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman
1 鏡割りのキキジキ/Kiki-Jiki, Mirror Breaker
1 メフィドロスの吸血鬼/Mephidross Vampire
1 隔離するタイタン/Sundering Titan
1 トリスケリオン/Triskelion
1 ダークスティールの巨像/Darksteel Colossus

4 師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top
4 旅人のガラクタ/Wayfarer’s Bauble
2 精神隷属器/Mindslaver
4 森の占術/Sylvan Scrying
3 刈り取りと種まき/Reap and Sow
4 歯と爪/Tooth and Nail
4 卑下/Condescend
2 マナ漏出/Mana Leak

5 森/Forest
1 島/Island
4 真鍮の都/City of Brass
4 ウルザの塔/Urza’s Tower
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
1 先祖の院、翁神社/Okina, Temple to the Grandfathers
1 水辺の学舎、水面院/Minamo, School at Water’s Edge
1 すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All


サイドボード
4 忘却石/Oblivion Stone
4 テル=ジラードの正義/Tel-Jilad Justice
2 マナ漏出/Mana Leak
2 すき込み/Plow Under
1 刈り取りと種まき/Reap and Sow
1 映し身人形/Duplicant
1 精神隷属器/Mindslaver
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この勝負は、1本目の勝敗が最も重要だ。

サイド後の相性は未知数だが、メインボードは『緑青ウルザトロン』が圧倒的に優位。

私にとって、1本目は絶対に取らなければならないゲームだ。



ところが、実際のゲームは最悪の方向に進んだ。

ターンエンド時に唱えられた「けちな贈り物」を打ち消した返しに、山岸さんのデッキに1枚だけ入っている「頭蓋の摘出」が、私の「歯と爪」を抜き去ったのだ。

そこから私が繰り出す脅威は打ち消し呪文に各個撃破され、数ターン後には「粗野な覚醒」が私のライフをゼロにした。

いきなり後が無くなってしまった。



ひとみしり 0-1 山岸


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粗野な覚醒 (4)(緑)
ソーサリー
以下から1つを選ぶ。
・あなたがコントロールするすべての土地をアンタップする。
・ターン終了時まで、あなたがコントロールする土地は2/2のクリーチャーになる。それは土地でもある。
双呪(2)(緑)(あなたが双呪コストを支払った場合、両方を選ぶ。)
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2本目は互いにマナを伸ばす展開となった。マナ量では、ウルザ地形が揃っているこちらが有利だが、後は相手の打ち消し呪文の枚数次第だ。

私の「精神隷属器」を2枚の「マナ漏出」で打ち消した返しに、山岸さんはメインフェイズに「けちな贈り物」を唱えた。

山岸さんの場にはアンタップした土地が3枚残っていたが、構わず私は「マナ漏出」で応じた。もしフルタップしてくれるようなら、返しでビッグスペルを通せるからだ。

当然、山岸さんは「けちな贈り物」を打ち消されることを選んだ。

その後は、消耗戦を制した私が、「隔離するタイタン」で山岸さんの土地を吹き飛ばした。



ひとみしり 1-1 山岸


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マナ漏出 (1)(青)
インスタント
呪文1つを対象とする。それのコントローラーが(3)を支払わないかぎり、それを打ち消す。
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最終戦は、あっけなく勝負がついた。

サーチスペルの補助なしに「ウルザ地形」を最速で揃えた私は、打ち消し呪文にバックアップされた「精神隷属器」を着地させ、相手を投了に追い込んだ。





ひとみしり 2-1 山岸



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精神隷属器 (6)
伝説のアーティファクト
(4),(T),精神隷属器を生け贄に捧げる:プレイヤー1人を対象とする。あなたはそのプレイヤーの次のターンの間、そのプレイヤーをコントロールする。(あなたはそのプレイヤーが見ることのできるすべてのカードを見て、そのプレイヤーのすべての決定を行う。)
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最後の壁を乗り越え、日本選手権本戦の出場権を勝ち取ることが出来た。


今回の勝利は、幸運に幸運が重なった結果だ。
実質的に勝敗を分けた2本目で私は、マナの残し方を間違えるミスまで犯していた。
相手が引いたカウンターの枚数を、こちらの脅威が上回っただけだ。


しかし、この日のために膨大な時間を練習に捧げ、ベストなデッキを構築し、ゲームプランを磨いてきた。

その努力が実ったことが、とにかく嬉しかった。



マッチが終了した直後、私と山岸さんは、2本目の感想戦を念入りに行うのであった。



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決勝ラウンド終了後、驚きの事実が告げられた。

この福井予選では、4名のプレイヤーに本戦出場権が与えられたのだが、

私以外の3名は、全員「遠征組」だったのだ。







次回、【大阪の陣】に続く。

コメント

nophoto
わっちー
2020年6月3日20:43

運命の決戦や如何に、って引きに胸躍ってしまい「うぉぉ!」ってなりました。熱い! 素晴らしい!

緑青ウルザトロン(ひとみしりさんver)、サイドボードからカイ・ブッティ式サイカトグの風味が感じ取れて、実に2000年代っぽくて良いですね! この「対トロンと対パーミに有用なものをメインに散らして入れといて、サイド後に適正枚数にする」って感じ、最近の構築ではあんまり見なくなったので趣深いです。メイン/サイドの散らし方の比、サイカの集中と綿密な分析とか、緑系ミッドレンジの赤青剣と白黒剣と十手とか、今日のメタゲームだとあーだこーだって当時は必死で考えましたねぇ。いや、懐かしい。

ひとみしり
2020年6月3日23:33

自分で書いてて、「これ、本当に実話なんだよなぁ」ってしみじみ感じるものがありました。
緑青トロンは、太田さんとアツヲにシェアして、その2人が新潟予選トップ8に入ってしまいました。なかなか自信作です。
でも、今思えば、もう少しサイドボードを散らすべきだったかも・・・・。
昔のデッキリストを見返してみるのも、なかなか趣があるもんです。

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