マジック回顧録 その11
2020年6月9日 Magic: The Gathering
「ラヴニカ:ギルドの都」の発売とともに、スタンダードにローテーションが起こった。
あまりに強力だった「ミラディンブロック」の退場によって、メタゲーム内のほとんどのデッキは崩壊した。
他の環境ならば、ローテーションの影響を受けにくいデッキがいくつか残るものだが、この時は例外だった。
それほどまでに「ミラディン」が強力で、「神河」はそうでもなかった。
私の相棒である「ウルザトロン」も、ほとんどが「ミラディンブロック」で構成されていた。
私は1年半も連れ添った相棒と、別れることになったのだ。
----------------------------------------
「ラヴニカ:ギルドの都」がトーナメントシーンで最初に活躍したのは、プロツアーロサンゼルス05を舞台とした「エクステンデッド環境」だった。
実は、エクステンデッド環境においても同時期にローテーションが起こっており、マスクスブロック以前のカードが全て使えなくなるばかりか、エクステンデッドの代名詞であった「デュアルランド」も失われた。
大量のカードを失ったことで、スタンダード以上に大規模な環境再編が起こっていた。
----------------------------------------
【エクステンデッドとは】
当時存在した、「古いカードも使えるフォーマット」。
当時はモダンもパイオニアも存在しておらず、プロツアーの構築フォーマットと言えば「ブロック構築」か「エクステンデッド」だった。
詳細はこちら。
http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89
----------------------------------------
そんな中、プロツアーロサンゼルス05で最も注目されたのが、「ボロス・デッキ・ウィン」だ。
キーカードである「サバンナ・ライオン〈第9版)」と「今田家の猟犬、勇丸(神河物語)」は、当時のクリーチャーとしては破格のスペックだ。
それに加え、モダンでお馴染みの「稲妻のらせん(ラヴニカギルドの都)」を擁することで、強力な「ビートダウン&バーン」に仕上がっていた。
日本人では藤田剛史氏が使用し、プロツアー5位の成績を収めた。
----------------------------------------
サバンナ・ライオン (白)
クリーチャー — 猫(Cat)
2/1
----------------------------------------
今田家の猟犬、勇丸 (白)
伝説のクリーチャー — 猟犬(Hound)
2/2
----------------------------------------
稲妻のらせん (赤)(白)
インスタント
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻のらせんはそれに3点のダメージを与え、あなたは3点のライフを得る。
----------------------------------------
もう一つ注目されたのが、「発掘」だ。
この頃は「発掘」の研究がまだ進んでおらず、「現存のデッキ」に発掘を組み込む手法がとられていた。
特に、オデッセイブロックの「スレッショルド」と組み合わせて使われるケースが多かった。
現代マジックにおける「ドレッジ」の原型となるデッキが現れるのは、数ヶ月後の世界選手権の舞台でのことだ。
日本勢が持ち込んだデッキでは、津村健志氏の「発掘サイカトグ」が最も結果を残した。
デッキの構造は、従来の「サイカトグ」に「浄土からの生命」と「化膿」をタッチしたものだった。
----------------------------------------
壌土からの生命 (1)(緑)
ソーサリー
あなたの墓地にある土地カードを最大3枚まで対象とし、それをあなたの手札に戻す。
発掘3(あなたがカードを引く場合、代わりにあなたはあなたのライブラリーのカードを上からちょうど3枚、あなたの墓地に置いてもよい。そうした場合、あなたの墓地にあるこのカードをあなたの手札に戻す。そうしなかった場合、カードを1枚引く。)
----------------------------------------
化膿 (1)(黒)(緑)
インスタント
アーティファクト1つかクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
----------------------------------------
そんな中、プロツアーを制したのは、当時世界トップクラスのプレイヤーであった「ルーエル兄弟」のうちの兄、「アントワイン・ルーエル」だ。
彼が使用した「サイカトグ」には、当時の常識を覆す工夫が施されていた。
----------------------------------------
【サイカトグ(アントワイン・ルーエル)】
4 サイカトグ/Psychatog
1 不可思議/Wonder
3 ブーメラン/Boomerang
4 堂々巡り/Circular Logic
4 対抗呪文/Counterspell
1 綿密な分析/Deep Analysis
3 嘘か真か/Fact or Fiction
4 魔力の乱れ/Force Spike
1 けちな贈り物/Gifts Ungiven
2 マナ漏出/Mana Leak
4 留意/Mental Note
2 選択/Opt
2 燻し/Smother
2 知識の渇望/Thirst for Knowledge
2 セファリッドの円形競技場/Cephalid Coliseum
7 島/Island
1 雲の宮殿、朧宮/Oboro, Palace in the Clouds
4 汚染された三角州/Polluted Delta
2 教議会の座席/Seat of the Synod
2 隠れ石/Stalking Stones
1 沼/Swamp
1 囁きの大霊堂/Vault of Whispers
3 湿った墓/Watery Grave
サイドボード
2 暗黒破/Darkblast
4 強迫/Duress
3 恐ろしい死/Ghastly Demise
1 曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror
2 剃刀毛のマスティコア/Razormane Masticore
1 占骨術/Skeletal Scrying
1 燻し/Smother
1 隠れ石/Stalking Stones
----------------------------------------
当時の一般的なサイカトグには、必ず「狡猾な願い」によるシルバーバレットが備えられていた。
しかし、ローテーションにより銀の弾丸の「質」が下がっていたため従来のようなインパクトは無く、サイドボード圧迫のリスクが相対的に高くなっていた。
アントワイン・ルーエルはそれを看破し、シルバーバレットを破棄して「サイドボードを強くする」ことを選択した。
これはまさに、「サイカトグ」に起こったイノベーションだった。
まぁ、「発掘サイカトグ」も相当に強かったので、日本では両方のバージョンが流行していたのだが。
----------------------------------------
狡猾な願い (2)(青)
インスタント
あなたは、ゲームの外部にあるあなたがオーナーであるインスタント・カード1枚を選び、そのカードを公開し、あなたの手札に加えてもよい。狡猾な願いを追放する。
----------------------------------------
あまりにも「エクステンデッド」が好きなので、かなり脱線してしまったが、いよいよスタンダードの話に戻ろう。
当面の私たちの目標は、「ファイナルズ予選」の突破だ。
----------------------------------------
当時のスタンダード環境について簡単に説明する。
環境初期のメタゲームは、10月に全国各地で開催された「都道府県選手権」によって形成された。
最も活躍したのは、「神河物語ブロック構築」の覇者、「けちコントロール」だ。
「スゥルタイ3色型」が一般的だったが、タッチ白やタッチ赤の「4色型」もみられた。
また、同じく神河ブロック構築で活躍した「青単呪師コントロール」だ。
「忌まわしい笑い」を入れるために黒を入れたものが多かった。
この環境のカードプールでアグロデッキを組むのは至難の業だったが、「ボロスアグロ」は一定の存在感を示した。
エクステンデッドで活躍した「8枚の1マナ域」は、スタンダードでも使用可能なのだ。
「けち」、「青黒」、「ボロス」、これら3つのデッキを中心に、メタゲームの土台が作られた。
----------------------------------------
忌まわしい笑い (2)(黒)(黒)
インスタント — 秘儀(Arcane)
すべてのクリーチャーはターン終了時まで-2/-2の修整を受ける。
連繋(秘儀(Arcane))(3)(黒)(黒)(あなたが秘儀呪文を唱えるに際し、あなたはこのカードを手札から公開して連繋コストを支払ってもよい。そうした場合、このカードの効果をその呪文に追加する。)
----------------------------------------
都道府県選手権の数週間前、「ウルザトロン」という相棒を失った私は、新しいデッキに挑戦することにした。
最初に手に取ったのは、「青単呪師コントロール」だ。
当時の私は、パーミッションコントロールなどほとんど使ったことが無く、特に同型対決のプレイングは未知の領域だった。
それでもなぜ、このような挑戦をしたのかと言えば、理由は単純だ。
神河ブロック構築の「グランプリ新潟05」に参加したとき、「呪師コントロール」を使って勝ち上がった有留知広氏のプレイングに憧れたからだ。
彼は、関東では有名なパーミッションコントロールの名手だ。
新潟では準優勝という結果を残したが、私はその決勝ラウンドを生で見させてもらった。
本当に素晴らしかった。
----------------------------------------
余談だが、グランプリ新潟05で、私はオリジナルデッキを山岸さんとシェアして出場したが、あまりにデッキが弱すぎて、2人でボコボコにされた。
確か、バントカラーのパワーカードを中途半端に詰め込んだデッキだ。
あれこそ、私にとっての「青白GAPPO」だ。
(青白GAPPOについてはこちら https://article.hareruyamtg.com/article/article_540/)
----------------------------------------
さて、有留氏に憧れて青単を手に取ったとはいえ、私自身はズブの素人。
ここはパーミッションの使い手からコツを聞くのが一番いい。
北陸ナンバーワンのパーミッションの使い手といえば、そう。佐藤さんだ。
パーミッションの基礎的なプレイングは、すべて彼に教わった。
重点的に練習したのは「同型対決」だ。
当時の私は、「同型は土地を置き続けた方が有利」という常識すら知らなかった。
そして、時にはフルタップで「曇り鏡のメロク」をプレイしつつ、全力でトークンを出してビートダウンするプレイも必要だ。
いわゆる「キレメロク」というやつだ。
熟練者には及ばないまでも、何とか草の根大会で勝ち上がれるくらいのレベルまで上達した私は、「発想の流れ」を加えた『青単呪師コントロール』で石川県選手権に出場した。
----------------------------------------
【青単呪師コントロール(ひとみしりver)】
4 呪師の弟子/Jushi Apprentice
3 曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror
1 潮の星、京河/Keiga, the Tide Star
3 真髄の針/Pithing Needle
4 マナ漏出/Mana Leak
4 邪魔/Hinder
3 時間の把握/Telling Time
3 巻き直し/Rewind
3 撹乱する群れ/Disrupting Shoal
3 ブーメラン/Boomerang
3 発想の流れ/Flow of Ideas
26 島/Island
----------------------------------------
----------------------------------------
発想の流れ (5)(青)
ソーサリー
あなたがコントロールする島(Island)1つにつきカードを1枚引く。
----------------------------------------
細部は覚えていないが、確かこんな構成だ。
結果は、確か予選ラウンドが4-1で、最終結果は8位だった。
トップ8に入ることが出来たものの、シングルエリミネション1回戦で、あばたさん「黒単ハンデス・ネズミ」にボコボコにされたのだ。
一番当たってはいけない相手だった。
このとき青単パーミッションの練習を積んだ経験は、その後、何度も私を助けることになるのだが、
黒単ネズミにボコボコにされた私は「青単」に限界を感じ、ひとまず別のデッキに手を伸ばすことにした。
次に調整したデッキは、「8(エイト)ヒッピー」という名のクロックパーミッションだ。
「惑乱の死霊」は古参のプレイヤーから「ヒッピー」という愛称で親しまれていたが、ラヴニカに収録された「ディミーアの巾着切り」もそれに匹敵する能力をもっていた。
これらを4枚ずつ搭載していることで、「エイト・ヒッピー」と名付けられたデッキだ。
マナクリーチャー経由で2ターン目に「ヒッピー」を召喚し、カウンターを構えることで相手に何もさせずに勝つデッキだ。
一部の都道府県大会で活躍していたが、ティア―3くらいの勢力だったと記憶している。
----------------------------------------
【8ヒッピー】
4 極楽鳥/Birds of Paradise
4 深き闇のエルフ/Elves of Deep Shadow
3 ラノワールのエルフ/Llanowar Elves
4 闇の腹心/Dark Confidant
4 惑乱の死霊/Hypnotic Specter
4 ディミーアの巾着切り/Dimir Cutpurse
4 梅澤の十手/Umezawa’s Jitte
4 マナ漏出/Mana Leak
4 差し戻し/Remand
2 最後の喘ぎ/Last Gasp
2 化膿/Putrefy
4 森/Forest
4 草むした墓/Overgrown Tomb
4 湿った墓/Watery Grave
4 ラノワールのエルフ/Llanowar Elves
4 ヤヴィマヤの沿岸/Yavimaya Coast
1 地底の大河/Underground River
----------------------------------------
しかし、実際にテストしてみると、全体的にクリーチャーサイズが小さく、「マナ漏出」を引けなければ「忌まわしい笑い」の餌食になることが多かった。
当時、「けちコントロール」を使っていた佐藤さんとは散々調整したが、本来有利であるはずの「けちコントロール」に対しても、良くて6:4で有利という程度だった。
アグロデッキとの対戦を捨てている割に、高い勝率とは言えない。
そこで、マナクリーチャーをすべて抜き、「困窮」、「鼠の短牙」、「鼠の墓荒らし」などを加えることで、全体的なカードパワーを底上げした。
----------------------------------------
【8ヒッピー(ひとみしりver)】
4 鼠の短牙/Nezumi Shortfang
3 鼠の墓荒らし/Nezumi Graverobber
3 困窮/Distress
4 闇の腹心/Dark Confidant
4 惑乱の死霊/Hypnotic Specter
4 ディミーアの巾着切り/Dimir Cutpurse
4 梅澤の十手/Umezawa’s Jitte
4 マナ漏出/Mana Leak
4 化膿/Putrefy
2 ネクラタル/Nekrataal
3 沼/Swamp
1 死の溜まる地、死蔵/Shizo, Death’s Storehouse
4 草むした墓/Overgrown Tomb
4 湿った墓/Watery Grave
4 ラノワールの荒原/Llanowar Wastes
4 ヤヴィマヤの沿岸/Yavimaya Coast
4 地底の大河/Underground River
サイドボード
4 残虐の手/Hand of Cruelty
4 最後の喘ぎ/Last Gasp
2 ネクラタル/Nekrataal
3 叫び回るバンシー/Keening Banshee
2 悪夢の虚空/Nightmare Void
----------------------------------------
----------------------------------------
困窮 (黒)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札を公開する。あなたは、その中から土地でないカードを1枚選ぶ。そのプレイヤーは、そのカードを捨てる。
----------------------------------------
鼠の短牙 (1)(黒)
クリーチャー — ネズミ(Rat) ならず者(Rogue)
(1)(黒),(T):対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは、カードを1枚捨てる。その後そのプレイヤーの手札にカードが1枚も無い場合、鼠の短牙を反転する。
1/1
▼▼▼▼▼▼▼▼反 転▼▼▼▼▼▼▼▼
憎まれ者の傷弄り (1)(黒)
伝説のクリーチャー — ネズミ(Rat) シャーマン(Shaman)
各対戦相手のアップキープの開始時に、そのプレイヤーは、自分の手札にあるカードが3枚を下回る1枚につき1点のライフを失う。
3/3
----------------------------------------
鼠の墓荒らし (1)(黒)
クリーチャー — ネズミ(Rat) ならず者(Rogue)
(1)(黒):対戦相手1人の墓地にあるカード1枚を対象とし、それを追放する。その墓地にカードが1枚もない場合、鼠の墓荒らしを反転する。
2/1
▼▼▼▼▼▼▼▼反 転▼▼▼▼▼▼▼▼
冒涜する者、夜目 (1)(黒)
伝説のクリーチャー — ネズミ(Rat) ウィザード(Wizard)
(4)(黒):墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたのコントロール下で戦場に出す。
4/2
----------------------------------------
※ちなみに、「鼠の短牙」と「鼠の墓荒らし」には「反転」という能力がついているが、これは現代マジックにおける「変身」とほぼ同じだ。
この新しい形の「8ヒッピー」は、「けちコントロール」をはじめとする遅いデッキに対して、高い勝率をたたき出した。
当然、サイドボードはほとんどビートダウン対策に割いている。
互角な盤面さえ築いてしまえば、「梅澤の十手」がゲームを決めてくれる。
----------------------------------------
梅澤の十手 (2)
伝説のアーティファクト — 装備品(Equipment)
装備しているクリーチャーが戦闘ダメージを与えるたび、梅澤の十手の上に蓄積(charge)カウンターを2個置く。
梅澤の十手から蓄積カウンターを1個取り除く:以下から1つを選ぶ。
・装備しているクリーチャーは、ターン終了時まで+2/+2の修整を受ける。
・クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで-1/-1の修整を受ける。
・あなたは2点のライフを得る。
装備(2)
----------------------------------------
私はこのオリジナルデッキで「The Finals福井予選」を勝ち上がり、本戦の権利を獲得したのであった。
次回、【世界王者との対峙】に続く。
あまりに強力だった「ミラディンブロック」の退場によって、メタゲーム内のほとんどのデッキは崩壊した。
他の環境ならば、ローテーションの影響を受けにくいデッキがいくつか残るものだが、この時は例外だった。
それほどまでに「ミラディン」が強力で、「神河」はそうでもなかった。
私の相棒である「ウルザトロン」も、ほとんどが「ミラディンブロック」で構成されていた。
私は1年半も連れ添った相棒と、別れることになったのだ。
----------------------------------------
「ラヴニカ:ギルドの都」がトーナメントシーンで最初に活躍したのは、プロツアーロサンゼルス05を舞台とした「エクステンデッド環境」だった。
実は、エクステンデッド環境においても同時期にローテーションが起こっており、マスクスブロック以前のカードが全て使えなくなるばかりか、エクステンデッドの代名詞であった「デュアルランド」も失われた。
大量のカードを失ったことで、スタンダード以上に大規模な環境再編が起こっていた。
----------------------------------------
【エクステンデッドとは】
当時存在した、「古いカードも使えるフォーマット」。
当時はモダンもパイオニアも存在しておらず、プロツアーの構築フォーマットと言えば「ブロック構築」か「エクステンデッド」だった。
詳細はこちら。
http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89
----------------------------------------
そんな中、プロツアーロサンゼルス05で最も注目されたのが、「ボロス・デッキ・ウィン」だ。
キーカードである「サバンナ・ライオン〈第9版)」と「今田家の猟犬、勇丸(神河物語)」は、当時のクリーチャーとしては破格のスペックだ。
それに加え、モダンでお馴染みの「稲妻のらせん(ラヴニカギルドの都)」を擁することで、強力な「ビートダウン&バーン」に仕上がっていた。
日本人では藤田剛史氏が使用し、プロツアー5位の成績を収めた。
----------------------------------------
サバンナ・ライオン (白)
クリーチャー — 猫(Cat)
2/1
----------------------------------------
今田家の猟犬、勇丸 (白)
伝説のクリーチャー — 猟犬(Hound)
2/2
----------------------------------------
稲妻のらせん (赤)(白)
インスタント
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻のらせんはそれに3点のダメージを与え、あなたは3点のライフを得る。
----------------------------------------
もう一つ注目されたのが、「発掘」だ。
この頃は「発掘」の研究がまだ進んでおらず、「現存のデッキ」に発掘を組み込む手法がとられていた。
特に、オデッセイブロックの「スレッショルド」と組み合わせて使われるケースが多かった。
現代マジックにおける「ドレッジ」の原型となるデッキが現れるのは、数ヶ月後の世界選手権の舞台でのことだ。
日本勢が持ち込んだデッキでは、津村健志氏の「発掘サイカトグ」が最も結果を残した。
デッキの構造は、従来の「サイカトグ」に「浄土からの生命」と「化膿」をタッチしたものだった。
----------------------------------------
壌土からの生命 (1)(緑)
ソーサリー
あなたの墓地にある土地カードを最大3枚まで対象とし、それをあなたの手札に戻す。
発掘3(あなたがカードを引く場合、代わりにあなたはあなたのライブラリーのカードを上からちょうど3枚、あなたの墓地に置いてもよい。そうした場合、あなたの墓地にあるこのカードをあなたの手札に戻す。そうしなかった場合、カードを1枚引く。)
----------------------------------------
化膿 (1)(黒)(緑)
インスタント
アーティファクト1つかクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
----------------------------------------
そんな中、プロツアーを制したのは、当時世界トップクラスのプレイヤーであった「ルーエル兄弟」のうちの兄、「アントワイン・ルーエル」だ。
彼が使用した「サイカトグ」には、当時の常識を覆す工夫が施されていた。
----------------------------------------
【サイカトグ(アントワイン・ルーエル)】
4 サイカトグ/Psychatog
1 不可思議/Wonder
3 ブーメラン/Boomerang
4 堂々巡り/Circular Logic
4 対抗呪文/Counterspell
1 綿密な分析/Deep Analysis
3 嘘か真か/Fact or Fiction
4 魔力の乱れ/Force Spike
1 けちな贈り物/Gifts Ungiven
2 マナ漏出/Mana Leak
4 留意/Mental Note
2 選択/Opt
2 燻し/Smother
2 知識の渇望/Thirst for Knowledge
2 セファリッドの円形競技場/Cephalid Coliseum
7 島/Island
1 雲の宮殿、朧宮/Oboro, Palace in the Clouds
4 汚染された三角州/Polluted Delta
2 教議会の座席/Seat of the Synod
2 隠れ石/Stalking Stones
1 沼/Swamp
1 囁きの大霊堂/Vault of Whispers
3 湿った墓/Watery Grave
サイドボード
2 暗黒破/Darkblast
4 強迫/Duress
3 恐ろしい死/Ghastly Demise
1 曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror
2 剃刀毛のマスティコア/Razormane Masticore
1 占骨術/Skeletal Scrying
1 燻し/Smother
1 隠れ石/Stalking Stones
----------------------------------------
当時の一般的なサイカトグには、必ず「狡猾な願い」によるシルバーバレットが備えられていた。
しかし、ローテーションにより銀の弾丸の「質」が下がっていたため従来のようなインパクトは無く、サイドボード圧迫のリスクが相対的に高くなっていた。
アントワイン・ルーエルはそれを看破し、シルバーバレットを破棄して「サイドボードを強くする」ことを選択した。
これはまさに、「サイカトグ」に起こったイノベーションだった。
まぁ、「発掘サイカトグ」も相当に強かったので、日本では両方のバージョンが流行していたのだが。
----------------------------------------
狡猾な願い (2)(青)
インスタント
あなたは、ゲームの外部にあるあなたがオーナーであるインスタント・カード1枚を選び、そのカードを公開し、あなたの手札に加えてもよい。狡猾な願いを追放する。
----------------------------------------
あまりにも「エクステンデッド」が好きなので、かなり脱線してしまったが、いよいよスタンダードの話に戻ろう。
当面の私たちの目標は、「ファイナルズ予選」の突破だ。
----------------------------------------
当時のスタンダード環境について簡単に説明する。
環境初期のメタゲームは、10月に全国各地で開催された「都道府県選手権」によって形成された。
最も活躍したのは、「神河物語ブロック構築」の覇者、「けちコントロール」だ。
「スゥルタイ3色型」が一般的だったが、タッチ白やタッチ赤の「4色型」もみられた。
また、同じく神河ブロック構築で活躍した「青単呪師コントロール」だ。
「忌まわしい笑い」を入れるために黒を入れたものが多かった。
この環境のカードプールでアグロデッキを組むのは至難の業だったが、「ボロスアグロ」は一定の存在感を示した。
エクステンデッドで活躍した「8枚の1マナ域」は、スタンダードでも使用可能なのだ。
「けち」、「青黒」、「ボロス」、これら3つのデッキを中心に、メタゲームの土台が作られた。
----------------------------------------
忌まわしい笑い (2)(黒)(黒)
インスタント — 秘儀(Arcane)
すべてのクリーチャーはターン終了時まで-2/-2の修整を受ける。
連繋(秘儀(Arcane))(3)(黒)(黒)(あなたが秘儀呪文を唱えるに際し、あなたはこのカードを手札から公開して連繋コストを支払ってもよい。そうした場合、このカードの効果をその呪文に追加する。)
----------------------------------------
都道府県選手権の数週間前、「ウルザトロン」という相棒を失った私は、新しいデッキに挑戦することにした。
最初に手に取ったのは、「青単呪師コントロール」だ。
当時の私は、パーミッションコントロールなどほとんど使ったことが無く、特に同型対決のプレイングは未知の領域だった。
それでもなぜ、このような挑戦をしたのかと言えば、理由は単純だ。
神河ブロック構築の「グランプリ新潟05」に参加したとき、「呪師コントロール」を使って勝ち上がった有留知広氏のプレイングに憧れたからだ。
彼は、関東では有名なパーミッションコントロールの名手だ。
新潟では準優勝という結果を残したが、私はその決勝ラウンドを生で見させてもらった。
本当に素晴らしかった。
----------------------------------------
余談だが、グランプリ新潟05で、私はオリジナルデッキを山岸さんとシェアして出場したが、あまりにデッキが弱すぎて、2人でボコボコにされた。
確か、バントカラーのパワーカードを中途半端に詰め込んだデッキだ。
あれこそ、私にとっての「青白GAPPO」だ。
(青白GAPPOについてはこちら https://article.hareruyamtg.com/article/article_540/)
----------------------------------------
さて、有留氏に憧れて青単を手に取ったとはいえ、私自身はズブの素人。
ここはパーミッションの使い手からコツを聞くのが一番いい。
北陸ナンバーワンのパーミッションの使い手といえば、そう。佐藤さんだ。
パーミッションの基礎的なプレイングは、すべて彼に教わった。
重点的に練習したのは「同型対決」だ。
当時の私は、「同型は土地を置き続けた方が有利」という常識すら知らなかった。
そして、時にはフルタップで「曇り鏡のメロク」をプレイしつつ、全力でトークンを出してビートダウンするプレイも必要だ。
いわゆる「キレメロク」というやつだ。
熟練者には及ばないまでも、何とか草の根大会で勝ち上がれるくらいのレベルまで上達した私は、「発想の流れ」を加えた『青単呪師コントロール』で石川県選手権に出場した。
----------------------------------------
【青単呪師コントロール(ひとみしりver)】
4 呪師の弟子/Jushi Apprentice
3 曇り鏡のメロク/Meloku the Clouded Mirror
1 潮の星、京河/Keiga, the Tide Star
3 真髄の針/Pithing Needle
4 マナ漏出/Mana Leak
4 邪魔/Hinder
3 時間の把握/Telling Time
3 巻き直し/Rewind
3 撹乱する群れ/Disrupting Shoal
3 ブーメラン/Boomerang
3 発想の流れ/Flow of Ideas
26 島/Island
----------------------------------------
----------------------------------------
発想の流れ (5)(青)
ソーサリー
あなたがコントロールする島(Island)1つにつきカードを1枚引く。
----------------------------------------
細部は覚えていないが、確かこんな構成だ。
結果は、確か予選ラウンドが4-1で、最終結果は8位だった。
トップ8に入ることが出来たものの、シングルエリミネション1回戦で、あばたさん「黒単ハンデス・ネズミ」にボコボコにされたのだ。
一番当たってはいけない相手だった。
このとき青単パーミッションの練習を積んだ経験は、その後、何度も私を助けることになるのだが、
黒単ネズミにボコボコにされた私は「青単」に限界を感じ、ひとまず別のデッキに手を伸ばすことにした。
次に調整したデッキは、「8(エイト)ヒッピー」という名のクロックパーミッションだ。
「惑乱の死霊」は古参のプレイヤーから「ヒッピー」という愛称で親しまれていたが、ラヴニカに収録された「ディミーアの巾着切り」もそれに匹敵する能力をもっていた。
これらを4枚ずつ搭載していることで、「エイト・ヒッピー」と名付けられたデッキだ。
マナクリーチャー経由で2ターン目に「ヒッピー」を召喚し、カウンターを構えることで相手に何もさせずに勝つデッキだ。
一部の都道府県大会で活躍していたが、ティア―3くらいの勢力だったと記憶している。
----------------------------------------
【8ヒッピー】
4 極楽鳥/Birds of Paradise
4 深き闇のエルフ/Elves of Deep Shadow
3 ラノワールのエルフ/Llanowar Elves
4 闇の腹心/Dark Confidant
4 惑乱の死霊/Hypnotic Specter
4 ディミーアの巾着切り/Dimir Cutpurse
4 梅澤の十手/Umezawa’s Jitte
4 マナ漏出/Mana Leak
4 差し戻し/Remand
2 最後の喘ぎ/Last Gasp
2 化膿/Putrefy
4 森/Forest
4 草むした墓/Overgrown Tomb
4 湿った墓/Watery Grave
4 ラノワールのエルフ/Llanowar Elves
4 ヤヴィマヤの沿岸/Yavimaya Coast
1 地底の大河/Underground River
----------------------------------------
しかし、実際にテストしてみると、全体的にクリーチャーサイズが小さく、「マナ漏出」を引けなければ「忌まわしい笑い」の餌食になることが多かった。
当時、「けちコントロール」を使っていた佐藤さんとは散々調整したが、本来有利であるはずの「けちコントロール」に対しても、良くて6:4で有利という程度だった。
アグロデッキとの対戦を捨てている割に、高い勝率とは言えない。
そこで、マナクリーチャーをすべて抜き、「困窮」、「鼠の短牙」、「鼠の墓荒らし」などを加えることで、全体的なカードパワーを底上げした。
----------------------------------------
【8ヒッピー(ひとみしりver)】
4 鼠の短牙/Nezumi Shortfang
3 鼠の墓荒らし/Nezumi Graverobber
3 困窮/Distress
4 闇の腹心/Dark Confidant
4 惑乱の死霊/Hypnotic Specter
4 ディミーアの巾着切り/Dimir Cutpurse
4 梅澤の十手/Umezawa’s Jitte
4 マナ漏出/Mana Leak
4 化膿/Putrefy
2 ネクラタル/Nekrataal
3 沼/Swamp
1 死の溜まる地、死蔵/Shizo, Death’s Storehouse
4 草むした墓/Overgrown Tomb
4 湿った墓/Watery Grave
4 ラノワールの荒原/Llanowar Wastes
4 ヤヴィマヤの沿岸/Yavimaya Coast
4 地底の大河/Underground River
サイドボード
4 残虐の手/Hand of Cruelty
4 最後の喘ぎ/Last Gasp
2 ネクラタル/Nekrataal
3 叫び回るバンシー/Keening Banshee
2 悪夢の虚空/Nightmare Void
----------------------------------------
----------------------------------------
困窮 (黒)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札を公開する。あなたは、その中から土地でないカードを1枚選ぶ。そのプレイヤーは、そのカードを捨てる。
----------------------------------------
鼠の短牙 (1)(黒)
クリーチャー — ネズミ(Rat) ならず者(Rogue)
(1)(黒),(T):対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは、カードを1枚捨てる。その後そのプレイヤーの手札にカードが1枚も無い場合、鼠の短牙を反転する。
1/1
▼▼▼▼▼▼▼▼反 転▼▼▼▼▼▼▼▼
憎まれ者の傷弄り (1)(黒)
伝説のクリーチャー — ネズミ(Rat) シャーマン(Shaman)
各対戦相手のアップキープの開始時に、そのプレイヤーは、自分の手札にあるカードが3枚を下回る1枚につき1点のライフを失う。
3/3
----------------------------------------
鼠の墓荒らし (1)(黒)
クリーチャー — ネズミ(Rat) ならず者(Rogue)
(1)(黒):対戦相手1人の墓地にあるカード1枚を対象とし、それを追放する。その墓地にカードが1枚もない場合、鼠の墓荒らしを反転する。
2/1
▼▼▼▼▼▼▼▼反 転▼▼▼▼▼▼▼▼
冒涜する者、夜目 (1)(黒)
伝説のクリーチャー — ネズミ(Rat) ウィザード(Wizard)
(4)(黒):墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたのコントロール下で戦場に出す。
4/2
----------------------------------------
※ちなみに、「鼠の短牙」と「鼠の墓荒らし」には「反転」という能力がついているが、これは現代マジックにおける「変身」とほぼ同じだ。
この新しい形の「8ヒッピー」は、「けちコントロール」をはじめとする遅いデッキに対して、高い勝率をたたき出した。
当然、サイドボードはほとんどビートダウン対策に割いている。
互角な盤面さえ築いてしまえば、「梅澤の十手」がゲームを決めてくれる。
----------------------------------------
梅澤の十手 (2)
伝説のアーティファクト — 装備品(Equipment)
装備しているクリーチャーが戦闘ダメージを与えるたび、梅澤の十手の上に蓄積(charge)カウンターを2個置く。
梅澤の十手から蓄積カウンターを1個取り除く:以下から1つを選ぶ。
・装備しているクリーチャーは、ターン終了時まで+2/+2の修整を受ける。
・クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで-1/-1の修整を受ける。
・あなたは2点のライフを得る。
装備(2)
----------------------------------------
私はこのオリジナルデッキで「The Finals福井予選」を勝ち上がり、本戦の権利を獲得したのであった。
次回、【世界王者との対峙】に続く。
コメント